川崎賢子『宝塚というユートピア』、岩波新書 新赤版940、東京: 岩波書店、2005。 数多の角度から「宝塚」に切り込んだ作品という印象。そうであることによって、「宝塚」が一面的でない存在として描かれた。また、著者が宝塚をいかに好きか、よくわかった。
「これこれこういう問題があるから、その問題について、こういった角度から検討する」という問題設定のようなものが、章、節などのまとまりのそれぞれにおいて明確にされなかったことは残念である。そのために、いろいろな視角からの数々の論考が、整理されずに積み上げられてしまったという印象を与える。
本作品から、著者は博識であり、論点を豊富にお持ちであることを窺える。そうした豊富な論点を紙幅と読者(本作は新書である!)に合わせて、いくつかに整理して、それぞれの問題をはっきり提示し、それぞれの問題についてきっちり述べたなら、より読者に優しい作品になったのではないだろうか。
本文中では、「伝統の創造」、「共同体」、「コード」、「ジェンダー」、「セクシュアリティ」、「オリエンタリズム」といった言葉が散見される。本書におけるこれらの用語は、私がこれまでに理解してきた指示内容とは、異なる内容を指示するものとして用いられているように感じた。
私のこれまでの理解が一般的であるかわからないから、筆者の用法が誤っているということではない。しかし、こうした「術語」のような概念を用いる際には、少なくともある程度の基礎的な理解を共有しておく必要があるように思われる。
したがって、本書においてこれらの用語が定義されることなく用いられたことについては、いささか問題があるように感じる。
最後にいいと思った一文を引用する。
最初に確認しなければならないのは、そこではまだ舞台の多元的な要素が未分化のまま混在していたということだ。帝劇オペラ、浅草オペラと宝塚との差別化をはかり、日本の「本格」オペラの選択すべきはそのいずれかと文化的ヘゲモニーを争う現代の批評の言説とは別に、帝劇から浅草へ、宝塚へと、東西に人材は勝手に移動し、離合集散をくりかえし、その交通と流動性が活力の源となりえた時代でもあったのだ。(p.38)
[目次]
はじめに
第1章 文化としての宝塚 1
第2章 宝塚というジャンル 2
第3章 宝塚の越境と占領 67
第4章 ジェンダー/セクシュアリティという視角 115
第5章 宝塚というシステム 163
おわりに 191
主な参考文献 201